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東京地方裁判所 昭和45年(ワ)9789号 判決

理由

一  原告の本訴請求中、請求原因1に基づく請求は、原告と被告会社との間の昭和四一年一〇月一五日付の、原告の被告会社に対する従前の貸金等の債権二二〇万円を目的とし、日歩四銭の利息、その他による準消費貸借契約に基づく請求であるところ、かりに原被告間に右のような準消費貸借契約が締結されたとするも、それは後記のとおり商法二六五条に違反し、無効であるといわねばならない。すなわち

1  被告が昭和三九年七月二七日設立登記された株式会社であること、そして右のさい原告がその取締役に選任されたことは当事者間に争がなく、右事実に《証拠》並びに弁論の全趣旨によると、前記被告会社設立登記のさい、定款により三名以上の取締役をおく旨定められ、原告のほか小川敏雄、須永金次郎の計三名が被告会社の取締役に選任されたこと、そして原告は昭和四一年はじめころ被告会社の代表取締役小川敏雄に対し取締役辞任の意思表示をしたこと、その結果被告会社は取締役につき前記定款及び法定の最低数を欠くるに至つたこと、しかしながら原告が右のように辞任後昭和四五年七月二八日まで、原告を除く前記取締役二名はそのままであつたが、原告の後任として新たな取締役が選任されて就任することはなかつたことが認められる。したがつて商法二五八条により、原告が右辞任後右のように後任の取締役が選任され、就任するまで、原告は被告会社の取締役の権利義務を有するものというべきところ、商法二六五条にいう取締役には右にいう取締役の権利義務を有するものもふくむものと解すべく、したがつて前記準消費貸借契約が同条にいう自己取引にあたること明らかというべきであるから、右につき取締役会の承認を得ることを要するというべきである。そして原告(第二回)及び被告会社代表者各本人尋問によると右につき取締役会の承認をえていないことが認められ、右認定を覆すに足る証拠はない。

2  もつとも原告は昭和四一年三月二五日、取締役会が開催されて右の点につき承認の決議がなされた旨主張する。そして《証拠》を総合すると、被告会社の定款によると被告会社の取締役会の招集につき代表取締役が招集する旨定められていたこと、昭和四一年三月二五日、なんらの取締役会招集の通知もなされないまま、被告会社の代表取締役である小川敏雄と原告の二名のみが集まり取締役会議と称して右両名において決議をしたことが認められる。そして前示のように右当時、被告会社には右原告ら二名のほか須永金次郎が取締役であつたところ、右取締役会議をひらくことについて同人の同意をえていないこと弁論の全趣旨により明らかであるから、右取締役会議につき招集権者による招集手続は省略されえないものというべく、しかも前示のとおり、本件においては原告は特別利害関係を有する取締役として議決権を行使しえないこと明らかであり、前記須永が出席協議して決議に加われば前記決議の結果に影響を及ぼすこともありうるから(なお右須永を無視すると定足数の前提となる法律又は定款で定める最低限をわること明らかである)、前記決議をもつて取締役会の決議と認めることはできないというべきであり、かりに決議があつたものとしてもそれは無効というべきである。

二  《証拠》及び弁論の全趣旨によると原告が昭和四二年二月五日訴外金杉新二(以下訴外金杉という)に対し原告所有にかかる原告主張のような建物を賃料一ケ月金五、〇〇〇円の約で期間の定めはなく賃貸したこと、そして訴外金杉が被告に対し昭和四二年五月分から昭和四四年八月分まで二八ケ月分の右賃料として合計金一四万円を支払つたことが認められ、右認定を左右するに足る証拠はない。

そして原告は、被告が訴外金杉から右貸借に基く賃料を取立てるなんらの権限もなく前認定のように前記賃料を受領したというのであるから、訴外金杉の被告に対してした前認定の弁済が民法四七八条にいう債権の準占有者への弁済として効力を有する場合は格別、右弁済によつて訴外金杉の原告に対する賃料債務は消滅しないものというべく、本件において右弁済が右の債権の準占有者への弁済として効力を有することにつき、原告はなんら主張しないし、また本件にあらわれた全証拠によるも右につきこれを認めることはできないから、原告にはなんら損失もないというべく、結局原告の不当利得の請求は理由がない。

三  よつて原告の本訴請求はその余の点につき判断をするまでもなく理由がないので棄却

(裁判官 柏原允)

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